9、未来へ。

 幸ちゃん。
 ねぇ。幸ちゃん・・・。

 子供達の声と足音が聞こえた。
 振り返ると、洋服を泥だらけにして、それがおかしくてたまらないように笑う男の子と女の子。
 二人は手を繋ぎ、はしゃぎながら、あたし達を追い越していった。遮る物のない田舎道を、風が通り過ぎていく。夜になると何も見えなくなるこの道は、昼になっても何も無い。緑と、風と、空しかない。風が緑を揺らす音と、頭の上を流れる雲しかない。
 その中に彼が居る。これ以上は、無い。
「・・・何か・・・」
 足音が遠ざかっていく。それをぼんやりと聞き流しながら、あたしは自分を重ね合わせる。きっと、彼もそうだろうと思いながら、あたしは幸ちゃんを見上げた。
「懐かしいね」
「・・・そうだな」
 ふ、と笑って幸ちゃんは頷いた。そして歩き出す。あたしの手を握って。

 
 幸ちゃん・・・。


 その手を、ギュッと握った。夢の中。そして過去。
 きっとどちらにも同じように握りしめた手を、再び強く握り返す。
「? 何だよ」
 その変化に、幸ちゃんは不思議そうな視線をあたしに向けた。それもまた、ずっと同じ。これからも、きっと。
 今なら分かる。無くしたくない。時間が過ぎれば消えてしまう物。無くなってしまうかもしれない物。そうじゃない。手を繋いでいれば、そこにあるもの。大切な物は、この手で守らなきゃ。繋いでいて貰えるように求めて。ほんの僅かでも守ろうって思いながら。
 それを今はあたし、子供の頃よりはちょっとは大きくなったこの手で、それが出来るかもって、少しは思えるから。大切に想う気持ちも、ずっと確かなモノになって、ここにあるから。
「離れちゃうと困るから、さ」
 だからね。ちゃんとね。そう言って笑うと、幸ちゃんは呆れたように。
 それとも無ければ、照れ臭そうに笑って言った。
「離れないよ」
 そう言って、あたしの手を強く握る。あたしの手よりもずっと大きくて、ずっと強くて。
 優しい、幸ちゃんの手も。
「大丈夫だよ。離さないから」
 その言葉も。
 笑顔も全部。
「・・・ホント、にー?」
 絶対、手放さないからね。近くにいたいから、ずっと。

 幸ちゃん。呼ぶ度にドキドキするよ。暖かくなるよ。こんな気持ちを、ありがとう。
 幸ちゃん。ずっとずっと大好き、だよ。今までも。これからも。きっと、ずっと。

「・・・約束だからね」
 貰った言葉に泣きそうになるのを堪えて、あたしは笑いながら言う。
「・・・後悔しても、知らないからね」
 返ってきたのは、小さな笑い声。
 苦しくなるほど、優しい音。


 ・・・幸ちゃん。
 すん、と鼻を鳴らして、あたしは彼を見上げる。そしてその横顔に、幸せの言葉を呟く。
 幸ちゃん・・・。
 切なくなるほど大切な気持ちを、精一杯抱きしめたまま、あたしはこの先歩いていく。こんな幸せ、他にはないよ。幸ちゃんにもそう思って貰えたら、それ以上の幸せなんて他にはない。危うくて、大きすぎて、持て余すようなこの感情は、幸ちゃんに向かうから抱きしめてられるの。それでも一緒にいたいって思う。それ程までに、好きだよ。

 ねぇ。今までもずっと。これからも、ずっと。
 ずっと。
 澄んだ空気しかないこの世界で、暖かい二人。ずっと共に生こうね。




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