2、遠い過去。

 幸ちゃん。
 幸ちゃんが、好き。だよ。


 砂浜。滑り台。ブランコ。小さな公園は、幼かったあたし達だけの城だった。
 幸ちゃん。幸ちゃん。彼の名前を呼びながら走った。
 幸ちゃん・・・。そんな僅かな世界の中で、姿を見失って。心細くなって、呟いて。
 ・・・幸ちゃん。泣きながら叫ぶと、彼はいつもどこからか慌てて現れて、あたしの頭を撫でてくれた。
 泣き止むまでずっと側にいてくれて、しがみつく手をいつだって強く握り返してくれた。小さな小さな、同じくらい小さな筈の彼の手は、その頃からずっとあたしのそれよりも大きくて暖かかったと記憶している。

 帰り道。夕焼けを見ながら手を繋いで重なる二人の影。同じくらいだった背は、日を追う毎に差を増して。
 幸ちゃん。
 幸ちゃん・・・。
 いつだって隣にいたのに。呼べば微笑んでくれて。いつだって望めば手を繋いでくれたのに。
 それなのに、いつからか朧気に感じた未来の予感。伴ってやってきたのは、不安。だから遠くなりそうな、その人の手を。
 その手を束の間、握りしめた。
 いつまでも、どこまでも一緒にいられる筈無いこと、どこかで知りながら。そんな関係になれる確信は何処にもないことを知っていたから。だから。
 あたしは、それに抗いたくて。
 その手を離したくなくて、彼の手を握りしめた。



「どしたの?」
 泥で汚れた二人の手。ギュッと握りしめたあたしの手に気付き、幸ちゃんはそう言ってあたしを見た。あたしは我に返って、慌てて首を振ると笑う。夕焼け。まるで刳り抜かれたかのような二人の影。
「・・・ううん」
 幸ちゃん。
 小さなあたしの手は、足は、まだ世界に何の影響力もなくて。
 守ることも、攻めることも、この体には何の力もなくて。
 幸ちゃん・・・。
 だからその時が過ぎ去って大きくなれば、この二人の関係もいつか変わるのも当たり前で。そうなっても、仕方がないって思うくらいにあたしは無力だから。
 だったらずっと、このままなら良いのに。
 並んだ二つの影は、どうしてかあたしの脳裏に強くこびりついた。




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