ラプンツェルは激怒する。後編

「返せーーー!!」
「返せも何も無いじゃん。あたしのお金で作ったんだよー?」
「だー! もう!! 良いから黙ってよこせや!!」
 こいつと話していると頭がおかしくなる。こうなったら実力行使有るのみだ!!
 そして彼女の持っているキーケースを取り上げようとしたあたしは「やだやだーーーやめてぇーー」とかいう、のんびりとした悲鳴を上げた彼女に腕をひね上げられ、悲鳴を上げた。いたたたたーーー!! いたーーーっ!!
「・・・うう・・・」
 そしてシクシク泣きながら、再びベッドに横たわったあたし。こいつ、一体何者なんだ。と思う。一体全体、何の武道を極めているのだ。こわーっ。
 そんな可哀想なあたしを見下して、彼女は幼稚園児を怒るように頬を膨らませて言う。 
「もー。そんなに怒らないでよー。ラプンツェルってばー」
「あほ! 誰がラプンツェルだ!」
「照れるな照れるな。知っているぞ。あたしの昔話を聞きながら、夢の中でラプンツェルになってただろっ?」
「半強制的なキャスティングに何を照れろって言うんだ。馬鹿かお前は!!」
 そして、どうしてそういうことがお前には分かるんだ! 気持ち悪いから、もう止めろーー!!
 そう叫んだあたしに彼女は日本語を理解していないのか、よしよしと頭を撫でて言う。
「そんなに言うなら、続きを話して上げようね」
「聞きたくねぇ! やめろーー!!」
「ラプンツェルは『すいません。すいません。どうもどうも』とやたら腰の低い妖精に言いました。『もういい加減、ここ出たいんだけどー』」
「だからどうして、お前の話す昔話のヒロインはそんなんばっかなんだよ!」
「いかんなぁー。これだから今時の三十路は」
「三十路って言うな!」
 という反論も無視して、彼女は何故か得意げ。
「オリジナリティーってやつでしょー? そういうモノが現代人には欠けてるんだよ。そんな大人に育てられた子供がアクティブに生きていけるはずがない」
「お前の言ってることはこの間からもっともっぽいけど全く全然違うって、あたししつこく言いませんでした!? 必要のないオリジナリティーと生きていく上で必要以上のアクティブは、いらないって言ったべーー!!??」
「そのお願いに、妖精は答えました。『どうかそれだけは御勘弁を』」
「何で、いきなり戻るわけ!? 人の話聞けよ! てか、どうして妖精、そんなに腰低いんだよ! もっと堂々といけよ!」
「あんたホント、悪役好きだよねぇー」
「あほーーー!!」
 呆れた表情の彼女の顔を、サインペンで黒く塗りつぶしてしまいたいと思った。修正ペンで、スッキリ消してしまいたいとも思った。そう出来たら、どんなに良いだろう、と本気で思った。今まで他人に、こんな思いを抱いたことはない。つまりこれが殺意ってヤツだろう。
 そのあたしに向かって、彼女は昔話を続ける。
「ラプンツェルは言いました。『だったら、もっと美味しいもの食べたい』」
「とことん食い意地の張ったヒロインだな。この前の白雪といい・・・てか、だから帰ってってば!」
「あんたモデルだからね。妖精は言いました。『世界中の美味たるものを全て食べ尽くされて、この先何をお望みなのでしょうか?』」
「人を勝手にモデルにするな! そんなに食い意地張ってないよ! てか、ラプンツェル食い過ぎ! 妖精もどこまで頑張るつもりだ!」
「有名童話にあんたを放り込んだらどうなるかってのがマイブームなんだ。ラプンツェルは言いました。『だったらゲテ物でも何でも良いから持ってきてよ!』」
「そんなこと言うかーーー!!!」
 何で、あたしが進んでゲテ物を食べたいみたいな展開に!
 という反論を無視して、彼女は笑顔で続きを話し続ける。
「しかし言うことを聞かなかった妖精は」
 彼女がこの笑顔を見せる時は、絶対ろくな事がねぇ。と思っていたら、案の定「ラプンツェルに長い髪で首を絞められ、死んでしまいました。くすっ」ですって。
「やめてー! 妖精、死ぬな! 生きろーーー!!」
「くすっ」じゃねーだろ! 「くすっ」じゃ!!! あんたの笑いのツボ、どう考えてもおかしいよ!!!
 休日の昼間。本来だったらこれ以上の至福は無いという時間帯である。どうしてあたしはこんな状態で叫んでるのよ神様ーーー!
 と、神様を恨んだあたしに、悪魔(元友人)は言う。妙に冷めた目で。あるいは非難するように。
「あんた殺しすぎだよ。魔女といい妖精といい」
「ちがっっ。ああああ、あんたでしょうがーーー!!!」
 うおー。本当に頭がおかしくなりそうだ! と、頭を抱えたあたしに、彼女は容赦なく童話を聞かせる。
「そしてラプンツェルは、妖精が出入りしていた窓から飛び降りました。とうっ」
「ば・・・っっ」 
 馬鹿じゃないの? ラプンツェル。そんなこと出来るならさっさと飛び降りろよ!!
 ・・・と、突っ込みかけたものの、もう声も出ない。そして最早、昔話でも何でもねぇー。と、ガックリ疲れ切ったあたしの肩を叩いて、彼女は一言。
「ね。ホント馬鹿だね」
 彼女は同情するような視線をあたしに向けて、ぽつりと呟いた。
「馬鹿だよねぇー」と。
「・・・何であたしが馬鹿になってるのよ」
 納得いかねぇ。いくわけがねぇ。そう思い、怒りの炎が再燃したあたしを指さし、彼女は言う。
「だって、あんただもん」
「あんたの中のあたしがどうであっても良いけど、それを真実にしてあたしに接するな!」
「その後、自由になったラプンツェルは」
「だから人の話を聞けよ!!! お前はいっつもそうだ!!」
 ガクガクと肩を掴んで揺するも、何故か彼女の声は全く変わりなく。
「某国の王子に背後から忍び寄り、その髪で首を絞め、脅して婚姻届にサインをさせました」とか、ほざく。
「そんな悪妻は嫌だーー!!」
 と、怒りの矛先を変更されてしまう自分の突っ込み根性が、結局一番むかつく不器用なあたし。
「王宮入りしたラプンツェルは、それはそれは勝手気ままに振る舞いました。気に入らないことがあると髪を鞭のように振り回し、時には首を絞め、時には手足を縛りました」
「勝手気ままの域じゃない! 絶対ない!!」
「だからさ」
 彼女は突っ込みも反論も意見も全て無視してポンとあたしの肩を叩き、ヤケにまじめな顔で、こう言った。
「どうしてもモノにしたい男がいたらさ。髪を伸ばして脅すと良いよ」
 最早、意味不明。
「お前の方程式は、最初から最後まで全部おかしいよ!!」
 つまりお前の人生は、おかしいーーーー!!!
 と、びしっと指を差して叫んだあたしの指先を身ながら、彼女は肩を竦めてさらりと応える。
「方程式なんて、最初がおかしかったら最後がおかしいのも当たり前じゃん。何言ってんの?」
「お前の生き方の話をしとんのじゃ、ぼけーーー!!」
 息を切らして声の限り叫んだあたしの言葉は、しかし今度は聞こえてもいなかったらしい。
「じゃ、そろそろ帰るわ。茶も出ないみたいだし」
 と、手を上げて、完全にスルー。聞かせるだけ聞かせて、彼女は手をヒラヒラ。そして玄関の前で振り返り。
「また来るねー」と、言った。
「まっっっっ」
「待て!!! その合い鍵置いてけ!!!!」という台詞と「また来る!? 来んでいいわーーー!!」という台詞。どっちを言おうか迷った一瞬の隙に、彼女は部屋から出ていった。畜生畜生。どうしてくれよう。取り敢えず簡易的にでも南京錠かチェーンロックを・・・。
「あ、そうそう」
 と、思ったあたしの耳に、ドアの開く音がした。そして、彼女は「我が家の」キーをブラブラさせながら言う。
「ちゃんと鍵、締めていって上げるね。発つ鳥跡を濁さず」
「・・・・・・跡を濁さず?」
 これだけあたしを汚染しておいて、今更どの口がそのことわざを言うんですかーーー!?
 と、引きつったあたしに、もう一言。
「それから南京錠とかチェーンとかしたら、今度は実力行使に出るからね。チェーンソー。または斧」
「なっっっっっ」
 何を言ってやがる。と、思ったものの言葉が出てこない。もう、あまりのことに出てこない。どうしてあいつは自分が正義なのだ。ここはあたしの部屋なのに。入るも出るも、あたしの意見最優先の筈なのに。どうしてあたしが我が儘もしくは間違ったことをしているみたいに。何この逆転現象。信じられない。アンビリーバボー!!!
 てか、どうして南京錠とかチェーンとか、確実にあたしの心を読むんだよ! 気持ち悪いー!!!
「飲み過ぎでしょ。酒は飲んでも飲まれるな。じゃーねーーー」
 その捨て台詞を残して、彼女はドアを閉めた。そして、カチンと音がしてドアが閉まる。
 全部読まれてる本当にうちの鍵持ってる。
「いやーーーーーー!!!!!」
 もう全てにおいて、その言葉以外に言うことなど無い。
 あたしは布団を被って蹲ると、悔しいやら悲しいやら怖いやらで出てきた涙を、必死に堪えた。




しつこく続く! 続編「竹取姫は、現実主義者」へ
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