もし未読でしたら、まずはこちらからどうぞ。→「白雪姫はニヤリと笑う」



 ラプンツェルは激怒する。前編

「ラプンツェル、ラプンツェル! おまえの髪を垂らしておくれ」

 ラプンツェル。それはグリム童話に出てくる、塔に閉じこめられた長い髪の女の子の名前。彼女はその名前の野菜と引き替えに、親の事情によって妖精に引き取られたのです。
 高い高い、塔の上。独りぼっちのラプンツェル。そこには階段も梯子もなくて、やってくるのは自分の所有者である妖精だけ。
 金色の長い髪を伝ってやってくる、妖精だけ。


「ってか、さー。あたしの生みの親、何考えてんだか分かんなーい。どうしてラプンツェルが食べたいが為に、あたしをほいほい上げちゃう訳?」
 ラプンツェルは、その髪をガシガシ掻いて呟きました。窮屈な塔の一室には、暇潰しのアイテムなど有りません。話し相手もいません。美味しいスイーツも、ニンテンドーDSもありません。
「暇ったらないんですけど」
 やさぐれたラプンツェルは、椅子を遠慮なくけっ飛ばしました。見れば石の壁には、そんな跡が幾つもあります。
 ラプンツェルは、結構な暴れ者でした。散歩に連れていって貰えない、猛犬のようでした。
「あー。ストパーかけたいなぁー」
 しかし、それも許されません。ツルツル滑るストレートの髪では、妖精が困ってしまいます。大体、それより以前に、何メートルもあるラプンツェルの髪にストパーなんて、ふざけるなよ(美容師談)でありました。
 ちなみにラプンツェルの髪は、いつも三つ編みにされていました。妖精が登りやすいということもありますし、それ以外に方法が無いとも言えます。そのままにしておいたら、有りとあらゆる所に髪の毛がからみつくに違いありません。下手をしたら、ラプンツェルが絡まるでしょう。それを避けるための三つ編みです。そして、それを塔の窓の杭に引っかけるのです。
「自由がねぇなぁー。おい」
 ラプンツェルはその縄のような髪をつかみ、結構な重さがあるはずなのに片手でぐるぐる回しながら呟きました。物凄い音を立ててそれは壁にぶち当たり、パラパラと埃が零れてきます。
 言うまでもありませんが、毛先は常日頃こんなに振り回していれば当然というか何というか、それに加えて勿論長いせいもあり、それはそれは枝毛だらけでした。キューティクルなんてどこにもありません。
「まー、確かに枝毛はしょうがない・・・」

 と、同意したところで。
 ・・・あれ?
「・・・」
 目が覚めた。


 はっっ!?
 目を開くと自分の頭を乗せている、ベージュの枕カバーが見えた。朝だ。寝る前に暗闇の中、その色が認められなかった視界には今、太陽の光が溢れ視界が開けている。
「目が覚めた」つまり、ラプンツェルは夢の産物。
 そして、その枕の向こう。
 つまり光の中、に。
「お、は、よーん」
「・・・ぎゃーーーーー!!!!」
 絶交したはずの幼稚園教諭が、いた。





「なななななっっ。何でっ。何でっっ」
 布団から飛び出して、あたしは「元」友人を見つめた。
 そう。あくまでも「元」である。
 いや、そんなことはどうでも良い。元だろうがなんだろうが、そこはどうでも良かった。他人と言うことだけ分かれば十分だ。親友でも親族でも彼でもない、知り合いであっても特別ではない、つまり他人であると言うことだけ分かれば。
 で? その「他人」であるお前は、どうしてここにいる!!!!? つまり、招き入れてもいなければ開いているはずのない、この部屋の中に何故! そんな権利も自由もない、そもそも入ってこれるはずのないお前が何故!!
「寝ぼすけさんだなぁー。もうお昼近いぞっ」
 あがあがあが、と、言葉がろくに出ないあたしのおでこをつついて、彼女は言った。
「寝ぼすけもなにも、あたしの勝手だろうが!」
「そんなに寝て、これ以上育っても良いこと無いよ?」
「昨日、飲み会で遅かったのよ!!」
「あらー。合コン? 良い男いた?」
「いたけど他の女に・・・って、ちがーーーう!!!」
 あたしは布団をちゃぶ台代わりにしてひっくり返すと、ベッドの上、僅かに後ずさって叫んだ。
「何であんた、部屋に勝手に入ってるのよ!? どういうことよ!?」
「もー。何言ってるのよ。物騒だよ。女の子の一人暮らしなのに」
 そう言って彼女は、ちちち、と人差し指を立てて振る。
「え? 戸締まりしてなかった?」
 もう癖になっているくらいで今まで余り意識せずにやっていたけど、もしかしたらドアが開いていたりしたのだろうか? 昨日、結構酔っていたし。やばい。だとしたら本当に危ないじゃないか。気を付けなきゃ。
 そう思ったあたしの目の前に「うちの家の鍵」をブラブラさせて、彼女は言った。
 いや、うちの鍵っぽいけど、付けているキーホルダーがない・・・。
「合い鍵、もっと分かり辛いところに置いておきなよ。あんな小物入れの中なんかに入れておくから、すぐ分かっちゃった」
「!?」
 その言葉を聞いて、あたしは判子やらアクセサリーやら(それを一緒にしておくのもどうかと思うが)が入っている小物入れの中を覗く。一応綺麗に整理されているその中に、有るはずの鍵はなかった。
「この間さぁー。ここであんたの三十路を祝うっていうか悲しむ会で、しこたま飲んだ後寝ぼけて漁ってたみたいー。あははは。ごめんねぇー」
「三十路言うな! 返せ馬鹿! この犯罪者ー!!! ごめんねぇで済むかーーー!!!!」
 つまりつまり。こいつは勝手に人の合い鍵を持ち出して、堂々と玄関から入ってきたらしい。 何が不用心だ! ふざけるなー!!!
「違う違う」
 あたしが彼女の手から鍵を大人しく剥ぎ取らせながら、彼女は首を振って言った。「その鍵で入ってきたのと違う」と。
「え・・・っっ?」
 じゃあ、どういうことさ?
 と思いつつ、お前どうしてあたしの考えていることが分かるんだ。と、別の意味で疑問なあたし。
「これ」
 そのあたしの前に、某有名ブランドのキーケースの中から彼女は、これまた見慣れた形の鍵を取り出した。つまりそれは、今あたしの手の中にある鍵と同じ形。
 そのキーケースは彼女のものに間違いない。何度も見たことがある。限定物で、可愛いし羨ま・・・じゃなかった。ええと・・・とにかく、ちょっと目に付くキーケース。
 いや間違えた。そんなこと、今はどうでも良かった。問題は、どうしてそこに、これと同じ鍵があるのかということでして。
 つまり、あたしのじゃないキーケースに何故、その鍵が入っているかということでして。
 それを揺らしながら、彼女は言った。
「これで入ってきたの」と。
「・・・それで? 入ってきた?」
 眉間に皺を寄せて呟き、自分の手の中の鍵とそれを見比べ、あたしは大混乱。
「・・・どういうこと?」
 そのあたしに、笑顔の彼女はとんでも無いことを言った。
「良い機会だから、合い鍵作っちゃった」
 そして、えへっっ。と、肩を竦めて笑う彼女。何その可愛さアピール。・・・って、いう、か・・・。
 ・・・・・・合い? ・・・鍵?
「ああい!? 合い鍵だぁーーー!!!???」
 その言葉を理解しするや否や、あたしは本気でその首を絞めて殺そうと思いました。はい。
 だって、何考えてるんだこいつーーーー!!!!




後編へ
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。